九州大学 芸術工学研究院 コンテンツ・クリエーティブデザイン部門
知足美加子 Tomotari Mikako
http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~tomotari
第84回国展 損保ジャパン美術財団奨励賞受賞/国画会会員推挙作品
受賞作品 山古志の角突①
受賞作品 山古志の角突②
を丸新に寄贈していただきました。
作品寄贈に関して新潟日報の記事
作品制作にあたってのコメント
全国の闘牛を調べると、新潟の山古志村でも開催されていることがわかった。(新潟では角突きと呼ぶ)中越地震の被害にあったところである。知人に被災された方もおり、心を痛めていた。震災の翌年に行われた角突きが人々を励ましたという記事を読み、山古志村に向かった。宿泊した旅館・丸新の田中氏に旅の理由を話すと、「先代から横綱牛(景虎)を育てていた」と答えてくれた。
震災時は牛舎が斜面ごと滑り落ちたところもあったそうだ。ミサイルが落ちたように、地面が大きな音をたてて揺れたこと。避難生活のこと。ペットの犬のために最後まで村に残ったこと。再び村に戻ったときは、死んだ錦鯉などの死臭の上を、カラスが舞い地獄のようだったこと。片付けの苦労など、メディアではわからない私の想像を超えたことがおこっていた。その一瞬の前後が、心の中で物語として繋がらないということは、どれほどの苦痛だろう。ハイチやチリ地震でも、はかりし得ないほどの寸断された物語と痛みがあるだろう。
しかし私は田中ご夫妻から、不思議なあたたかさや強さを感じていた。生きるということに、真に向き合ってこられた方々の美しさなのかもしれない。彼らから景虎の重綱(横綱の牛につける綱)を託されて、福岡に帰った。研究室に飾った重綱に励まされながら、作品に向かい合った。この作品と、樟の香りと、樹齢100年の命の量が、被災された方々を元気づけてほしいと心から思っている。

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